マウナケアを先住民であるハワイアンが守る姿を世界は見ている
10年越しで続いているマウナケアでの天体望遠鏡の建設問題は、再び世界のメディアで広く注目されている。標高4207mの休火山であるこの山の麓に先住民であるハワイアンや他の島々からの人々が集結し道路を塞ぎ、カルフォルニアの会社Thirty Meter Telescope (TMT)建設の為の機材の運搬を阻止する活動を行っている。 (他に記載がないもの以外、写真はすべてトム・ピーク氏が撮影)
【朝焼けのマウナケア。世界各国の天文台が立ち並ぶ山頂の淵に三つの観測施設が見えている。】
ハワイの伝統では、最も神聖な場所の一つであり、そこを守る為に10年間闘争が続いている。ここは、偉大なる女神達の住処であり、神聖な湖、古代からの神社もある。ポリネシアでは最も高地とされる先祖の墓地もあり、ハワイの天地創造の神話に登場する場所だ。この美しい高山の砂漠には、地球の他の場所では見る事のできない植物や動物達が生息している。
【プ’ウ ポリ'アフ (右手前) 夜明け コナのフアラライ火山がマウアナケアの朝日の影の下に映る。プ’ウ ポリ’アフは、ハワイの神話の中に登場する雪や氷の女神であり, 山頂に棲む女神達の一人だ。】
しかし同時にマウナケアは、北半球の山頂として唯一残された空気が汚染されていない、明かりのない夜空を観測できる場所であり、最新の天文学の研究として最適の場所なのである。1964年以来多くの天体望遠鏡が建設されて来た。その中には、カリフォルニア州が保有するツイン10メートル・ケックス(Twin 10-meter Kecks)を含む世界で最も大きな天文台が幾つか立っている。
【現在既に20の天体望遠鏡とアンテナがマウナケアの山頂に混在している(VLBA天体望遠鏡は、ここに見えていない)。】
現在、天文学界の次の覇権を誰が握るかという競争が起こっている。TMTの競争相手は、チリの高山に建設中のGMT(米国内の別の超大型30メートル望遠鏡)とヨーロッパのEMT(次世代地上超大型39メートル望遠鏡)という二つの超大型望遠鏡だ。TMT14億ドルプロジェクトを支えるのは、インテル創業者で億万長者のゴードンムーア(最大の支援者)、アメリカのカルテック、カリフォルニア大学、科学者組織、そして、中国、日本、インド、カナダである。
【山の守護者たち(クーキアイマウナまたはキアイ)は、マウナケアアクセスロードに広がる保護キャンプの上にそびえるプウフルフルの頂点から上はすべて山であるとみなしている。このエリアは、ロイヤル オーダー オブ カメハメハ(カメハメハ王室政令)によって、道路封鎖のあいだ、人々が安全に集い、眠ることができるよう、最近、プウホヌア(安全地帯)として提供された場所。このハワイ国旗は、占領により苦難にあえぐ国民の状態を象徴する逆さ国旗のひとつである。】
マウナケア闘争は、ハワイ諸島が1959年にアメリカ併合された後、程なくして始まったハワイアンルネサンス(ハワイ文化復興運動)を反映する多くの出来事の中のひとつである。この運動は、ハワイ独自の言語、文化的習慣、マウナケア、ワオ アクア(“神々の領域“)を含める「聖地」を、ハワイアンの手に取り戻すために始まった。 復興運動の成長とともに、ハワイにおける厳しい植民地支配の歴史と、1893年に起こったハワイ王国転覆のクーデター(アメリカの支援によって、サトウキビ農園主たちが引き起こした)に関する学識が深まっていった。そしてこれは、ハワイ人の法的既得権利を認め、本来の統治権の回復を要求する引き金となった。 マウナケアについては、山の頂上の正当な所有者が誰なのか、が問題だった。それは、クーデターと1959年のアメリカ併合のあとに、ハワイ王国から没収され、"割譲された土地" であるからだ。
【7月17日に集まったマウナケアの保護者たち。この日、国と州警察によって、アメリカ軍兵士たちが取り囲む中、34名の長老たち(クプナ)が逮捕された。】
“山の守護者たち”(クーキアイマウナまたはキアイ)は、建設機械の搬入阻止の法的根拠として、「ハワイ神聖冒涜防止条例」を挙げている。 そして抗議活動を平和的に行うために、古代からの教えである“カプ・アロハ”と伝統儀礼を励行して、暴力行為だけでなく、怒りを表現することさえも禁じている。 それでも、2019年の活動の間、警察は40人もの非暴力の守護者たちを逮捕した。その中に7月17日に逮捕された34人の長老たちも含まれている。 逮捕の際、守護者たちと同様に、警察官たちも、穏やかで、非暴力であり、とても丁寧な対応であった。
【封鎖リーダー カホオカヒ カヌハ。クムフラで、封鎖リーダーでもあるプアケースと並び、7月17日の長老たちの逮捕の間、群衆に対して呼びかけを行った。】
“マウナケア アナイナ ホウ”、“カ ラーフイ ハワイ”、“ロイヤルオーダー オブ カメハメハ”、“ハワイ チャプター オブ シエラクラブ”、を含む島民たちは、山の頂上での過剰な開発と、国の管理体制に対して、長い間、抗議を続けてきた。
1998年から始まった立法機関の監査においても、国が山の文化的・環境的資源の適切な保護を行わずに、国自体が立てた計画や、規則、規制さえもほとんど無視して、天文台の開発を推し進めたことは厳しく非難されている。これは今日までも続く不法行為の見本である。
【カラパナのミュージシャン サミュエル ケアリイイホオマル 7月17日道路封鎖にて】
国の公的機関や、天文台も、ハワイ独自の生態系と、ハワイ人の文化的権利を保護するために定められた州法、連邦法に違反しており、ハワイ伝統文化の実践者と環境保護家たちは、法廷での救済を求めざるをえない状況に追い込まれた。 何年も法廷は彼らの味方であった。但し、ハワイ最高裁が下したTMT建設許可が2018年に発効するまでは。 現在の懸念は、ハワイの法廷が、他のふたつの政府出先機関のように、政治的、経済的圧力の黒幕と、島の新たな開発を推し進める圧力団体の影響を受けるようになることである。
【州警察と地方警察の完全な戦闘装備。7月17日の道路封鎖の検挙において。(写真左)マウナケアの長年の守護者であるケアロハ ピスシオッタ氏は、長老たちの逮捕に関して、ニューヨークタイムズの電話インタビューに応じた。その後ろでは、警察と国軍兵士がアクセスロードに立っている。(写真右)】
2014年から繰り返されてきた保護活動(最近2カ月の道路封鎖も含めて)を経て、最近、第二の建設候補地、カナリア諸島 北ヘミスフィアでの巨大望遠鏡建設許可の可能性を探るとTMTの役員が発表した。 太平洋諸島の島人、世界中の先住民、多くの天文学者を含め、地球規模の大きな支持が守護者たちに集まったことによって、TMT幹部が、10年以上にわたるハワイ先住民たちの訴えをようやく聞き入れ、他の場所に天文台が建つ可能性もでてきたようだ。
【マウナケア保護者たち、アンクル アール デレオンとルース アロウアが他のキアイと話している。7月17日】
マウナケア闘争によって生じた良いことのひとつは、これまでに見られなかった主要メディアの報道によって、現代ハワイ文化とハワイの植民地時代の歴史、そして、アロハの精神で自らの土地を守ろうと体を張って活動するハワイ先住民たちへの、世界中の人々の理解が深まったことだ。 ホテル業界や不動産開発業者がアメリカ併合後に作り上げた、うわべだけの島のイメージが、やっと取り払われ、本来の島の姿が見えてきた。それは、類まれな火山の島、豊かなポリネシア文化と、この闘争を不動心とアロハの精神で解決することを決意した人々の驚くほどひたむきな姿だ。
Translator : Kiyomi Mitamura and Mariko Kamimura
翻訳 三田村清美、上村真理子
Tom Peek September 2019
トム ピーク 2019年9月
【原初の美しいマウナケア山頂。1964年以前の記録写真】
Original article here http://daughtersoffire.com/news/world-watches-native-hawaiians-defend-mauna-kea
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